文:高エネルギー加速器研究機構・藤本順平氏
物理学のCold Fieldより
20世紀は物理学の世紀と言えるほど宇宙についていろいろなことがわかってきました。一言でまとめると、この宇宙のすべては粒でできていて、粒の間に働く力も粒が交換されるのだということです。しかも、その粒の種類は少なく見積もって15種類です。これだけのことがわかるのに、ヒトは100年を費やし、現在もなお検証を続けています。
何故100年もかかったのでしょう。それは、一つには、その粒が非常に小さいということです。そもそも分子・原子が実体として認識されるようになったのが、およそ100年前でした。それまでは、仮説にすぎませんでした。最初に分子を実体としてとらえたのは、あの有名なアインシュタイン博士です。当時、ブラウン運動として知られていた水の中で花粉の中の小さな粒がゆらゆらと動く現象が、実は水が分子でできていることの証拠であると指摘しました。水の分子の大きさは1億分の1センチ程度。直接的に粒を見るのではなく、花粉の中の粒の運動の観察により、間接的にその存在が確かめられたのです。
その後、「霧箱」という装置が発明されます。電気を帯びた原子より小さい粒が通った跡を観察する装置です。この装置により、宇宙から未知の粒が、拡げた手の平に一秒間に1個降ってきていることもわかりました。電子の反物質・陽電子がこの装置により発見され、また光というエネルギーが電子と陽電子という物質になることも発見されました。
今回、劉敏史氏にその解体を記録していただいたベル測定器は、21世紀の霧箱です。写真に記録し、目で観察していた粒の反応を、電気信号に変え、コンピュータによって粒の軌跡を再現します。また、加速器KEKBは地上にはなく、宇宙からもほとんど降ってこない粒、ビークォークを人工的に大量に作りだし、宇宙の基本法則を解明しました。劉敏史氏に撮っていただいた写真は、まさに、100年続けてきた人類の宇宙への挑戦の今を伝える報道写真でもあるのです。